市立小樽文学館で「小樽・札幌ゲーセン物語展」開催中。“ゲーセンの夢”をもう一度

北方ジャーナル

2021年02月17日 00:00


実際に遊べるアーケードゲーム

 1980年代から90年代にかけて若者たちが熱中したゲーセン(ゲームセンター)。そこで使用されていたアーケードゲーム(業務用ゲーム機)やゲーム基板、ポスター、雑誌、レコードなど懐かしいグッズを紹介する「小樽・札幌ゲーセン物語展」が3月26日まで市立小樽文学館で開催中だ。失われつつあるかつてのゲーセンの文化を記録し伝えていこうと札幌在住の男性が企画し、ゲーム愛好者が協力。企画した男性は「往時のゲーセンは消えようとしているが、ゲームを楽しんできた一人ひとりに物語があるはず。そうした思い出なども紹介していきたい」と話している。

「ゲーム愛好家の協力で実現した」と語る藤井さん

「小樽・札幌ゲーセン物語展」を企画したのは自他ともに認めるゲーム愛好家の藤井昌樹さん(51)。14年前に市立小樽文学館を訪ねた折、ウェブ日記でゲームに関する記事を書いていた玉川薫副館長(現館長)と知り合い交流が始まった。2009年頃からここでボランティア活動も始め、12年の「テレビゲームと文学展」、14年の「ボードゲームと文学展」の企画に携わってきた。

 また昨年夏には、ゲーセン物語展の開催意図などをまとめたサイトを開設。「ゲーム文化保存研究所」のサイトにも寄稿するなどライターとしても活動している。

 会場に入ると年代物のアーケードゲームが目に飛び込んできた。来場者の男性がゲームで遊んでいる。複数のゲーム基板を週替わりで交換し「ミュータントナイト」「鋼鉄要塞シュトラール」など90年代のゲームを無料で楽しむことができる。ゲーセンに掲示されていたポスターやチラシ、パンフレット、雑誌などの紙媒体の他にゲーム音楽のCDやレコード、利用者同士のコミュニケーションため使っていたゲーセンノートも置かれている。展示スペースは狭いが、ほの暗い空間はかつてのゲーセンを彷彿させる。


会場には多くのゲーセングッズが展示されている

 ゲーム機や基板など展示物の多くは札幌圏内に住むゲーム愛好家6人が私蔵品を提供し、藤井さんもコレクションを出している。実際に遊べるゲーム基板は、倒産した栃木県のゲームソフト開発会社のもので、ゲームの権利を取得した(株)ハムスターの許可を得て展示している。「地方の文学館がメーカーの了解を受けて展示するのは、かなり画期的なこと」と藤井さんは言う。

 今回の企画展が生まれたのは昨年1月に小樽で開催された「文化庁メディア芸術祭」がきっかけ。「消えつつあるゲーセンを何らかの形で復活させたい」。オープニングイベントで札幌のゲームファンからそのような声があったと玉川館長から聞いた。後日、本人と会って話を聞きゲーセン展のヒントを得た。

 70年代に登場したテレビゲームは、80年代から90年代にかけてゲーセンを中心に広がり、そこでは独自のコミュニティとプレイヤー一人ひとりのナラティブ(経験から生まれる物語)が生まれたという。しかし、2000年代に入ると家庭用ゲーム機やスマホ、SNSの普及などでゲーセンは減少。残っているところでもクレーンゲームのように景品の獲得を目的としたゲーム機が主流になった。札幌では19年にレトロゲームコーナーで人気のあったディノスパーク札幌中央店がファンに惜しまれながら閉店した。

 メディア芸術祭でゲーセンを復活させたいとの声を上げたファンの胸には、同店を失ったことの喪失感もあったようだ。「ゲーセンをテーマに企画展をやりたい」。2020年2月、玉川館長に相談するとOKが出た。だがその後、新型コロナウイルスの感染拡大により、各地のゲーセンは休業に追い込まれた。「ゲーマーの聖地」と呼ばれる東京の「ゲーセンミカド」のように、クラウドファンディングで窮地を乗り切った店もあるが、ただでさえ経営の苦しいゲーセンを取り巻く状況はいっそう厳しくなった。

 企画展が実現したのは1年後。藤井さんは企画展と連動した取り組みとして、小樽と札幌にかつて存在したゲーセンの情報を収集するサイト「札幌・小樽のゲーセン情報リスト」も運営している。多くの情報が寄せられ、1月現在までに札幌市に181件、小樽市に15件のゲーセンがあったことが分かったが、どちらも現役の店舗は数えるほどしかない。

「テレビゲームは40年以上の歴史があるのに、ネットで集めることのできる情報は断片的。ゲーセンの情報や文化を記録として残していかなければ時代の流れと共に消えていく。そういう状況をフォローしていくひとつの手段がミュージアムである文学館です。ゲームやゲーセンの文化を伝えていくため小樽以外の地域でも展示会を開きたい」(藤井さん)と夢は広がる。

 藤井さんは、私生活では体調を崩して昨年の1月に支援員として勤務していた福祉関係の事業所を辞めた。新型コロナの感染拡大もあり、新しい生き方を探すのは夏ごろになりそうだ。「時間があったぶん、企画に力を注ぐことができた。しかし、市民活動の中でゲームはマイノリティ。ここには居場所的な要素もあることに気づいてほしい」と期待する。(あ)

企画展は3月26日まで。入場無料。
問い合わせは同文学館(☎0134・32・2388)へ。


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