「領収証を」に公憤 札幌の風俗店が「東電関係者出入禁止」

北方ジャーナル

2011年09月16日 23:17


 「クレームは覚悟の上」という「メンズエステ『オリーブガーデン』」(札幌市中央区)

 もう「東京電力」宛ての領収証を切りたくない――。札幌市中央区・ススキノ地区の性風俗店が14日、「東電関係者入店拒否」を宣言、賛意を示すメールが全国から殺到するなど大きな話題となっている。名指しで“出入り禁止”を宣告された東京電力から現時点で抗議などは届いておらず、店の関係者は「福島第一の事故が完全に収束するまでこの措置を続ける」としている。
 店は、今年4月からススキノ地区で営業している「メンズエステ『オリーブガーデン』」(札幌市中央区南5西5)。14日午後、同日付のスタッフブログで東京電力社員の利用を「一切お断りします」と宣言、「原発推進派の御用学者」も同じ扱いとする旨を明記した。ただ、「下請け会社で」現場作業に就く人たちは含まないとしている。



 同店長によると、ブログ公開直後から問い合わせや激励などが殺到、公式サイトへのアクセスが通常時の一日約3000件から同約8万件に跳ね上がり、2時間ほど後には開業以来初めてサーバーがパンクした。その日のうちにニュースサイトメンズサイゾーやスポーツ紙東京スポーツなど4カ所から取材があり、翌15日になってもメールやツイッターなどを通じて話題が拡散。同日午後には「意気に感じて利用を決めた」と、新規利用客が来店したという。

 一私企業の関係者を名指しで入店拒否することについて、ブログ読者からは「差別ではないか」と指摘する声もあった。同店長自身、「決断までにかなり葛藤があった」と話す。

「きっかけは、12日にご利用くださったお客様に白紙の領収証を求められたことです。うちは必ず宛名を書くことにしているのでそう伝えたところ、しぶしぶ『東京電力で』と」

 30歳代半ばというその男性は、12日午後に「70分1万3000円コース」を利用、清算時に「東京電力」「飲食費」と記した領収証の発行を求めたという。店長のみならず接客を務める女性たちも「えっ」と驚き、強い不快感を覚えた。

「東電を騙ってるだけじゃないかというご指摘もありましたが、当たり前の感覚で考えて、まったく無関係の人がそういう領収証を求めるとは思えません。もしそれが必要経費として処理されたら、東電は単なる遊興費を会社として負担し、それが電気料金に反映されることになる。私自身、10数年前まで関東在住でしたが、そんな電力会社は許せないと思ったんです」

 出入禁止宣言の事情を公開すると、特定の利用客のプライバシーを暴露することになり、そうした行為は職業倫理に悖る、場合によっては店の信用にも関わる―、との迷いもあったが、女性スタッフ全員の賛同を得て「この問題だけは別」とブログ公開に踏み切った。「目先のお客さんは貴重だし、それを断るとみんなに負担をかけることになる」と悩む店長に対し、同店に勤務するみなみさん(28)は「店長の判断は正しい」とブログ公開を支持した。

「私たち一般人は、電力会社に抵抗できないじゃないですか。こういう行動で少しでも私たちの意志を表現することができるなら、と思ったんです」


 日刊ゲンダイ(右)と東京スポーツの紙面(いずれも16日付)

 震災発生以降、東電の隠蔽体質や被災地への不誠実な対応について憤りを感じるようになったという店長は、電力自由化・送電分離を主張する。

「電力事業はわれわれのような商売とは違い、国に守られて独占でやってるんだから、会社の金で風俗なんかに来たら駄目ですよ。被災地の人たちに申し訳ないと思わないんだろうか。遊ぶなら自分の金で来て欲しいですね」

 15日付のメンズサイゾーで同店の取り組みをレポートした東京都のライター橋本玉泉さん(48)は、店の「宣言」を「非常に意義のある抵抗」と評価する。

「東電を差別しているとの批判もあったようですが、それは違うと思います。これは消費者としてのボイコットですよ。店長自身も『自腹で遊んで欲しい』と言ってるように、人間を差別してるわけじゃなく、会社としてそういう金を使うなと言っているだけ。風俗だろうがスナックだろうが居酒屋だろうが、こんな時に経費で遊ぶなんて言語道断です。文句を言おうにも、東電に対してはたとえば不買運動なんかできないじゃないですか。払いませんと言ったら、電気を停められる。だからこういう形での抵抗になったわけで、先陣を切った同店はたいへん勇気があると思います」

 くだんの利用客が実際に東電関係者だったかどうかは定かでなく、同店の領収証は複写式ではないため事後の検証が難しい。だが、事実とすればそれはいずれ必要経費として精算されることになる。東京電力は16日午前、本誌の取材に対し、「当社の社員が経費で(風俗店を)利用することはあり得ない」と言い切った。

「社内において厳正な処理を行なっていますので、そのようなことはあり得ません。本件については事実関係を承知しておりませんので、たいへん申しわけないのですがコメントは差し控えさせていただきたいと思います」(本店広報部)

 同社は現時点で、苦情や抗議なども検討していないという。オリーブガーデンの店長は「もしクレームが来たら、正面から応じる。むしろ『衿を正せ』と、こちらから抗議したいほど」と、一歩も引かない構えだ。  (ん)




〔追記〕

 本エントリ公開後、記事内容に対して評論家の小谷野敦さん(48)から以下の疑義が寄せられたので、公開する。

 『同店の措置は、あきらかに特定企業に対する差別である。経費での利用を拒否するというのであれば、東京電力を含むあらゆる企業にそのルールを適用しなくてはならない。たとえば自動車会社は年間7000人もの人たちを死なせており、私なら自動車会社にこそそういう扱いをして貰いたいと考える。まして、東電は一人も殺していない。不祥事を起こした企業ということでも、同社以外に問題のある会社がたくさんあるのは言うまでもない。原子力発電所事故などが現在たまたま大きな話題になっているからといって、名指しで公然と出入り禁止扱いするのは、差別以外の何物でもない』
  (9月17日午前0時06分追記)
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