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2022年10月08日

岩内町の市民科学者・斉藤武一さんが木田金次郎の絵本を出版 地元の画家の業績を一冊に

岩内町の市民科学者・斉藤武一さんが木田金次郎の絵本を出版  地元の画家の業績を一冊に
自費出版した『木田金次郎の絵本』

 岩内町在住の市民科学者、斉藤武一さん(69)が、このほど郷土の画家・木田金次郎をモチーフにした『木田金次郎の絵本』」を自費出版した。木田は有島武郎の小説『生れ出づる悩み』のモデルとして知られる。斉藤さんは大学時代にこの小説を読んで感銘を受け、以前には木田の評伝も上梓。今回の絵本は、以前に制作した木田の紙芝居を撮影した写真が出てきたことから思いつき、7月から作業に取り組んできた。「今年は木田の没後60年、ニセコの有島農場の開放から100年の記念すべき年。絵本を通してひとりでも多くの人に木田の業績を知ってほしい」と話している。

岩内町の市民科学者・斉藤武一さんが木田金次郎の絵本を出版  地元の画家の業績を一冊に
『木田金次郎の絵本』を出版した斉藤さん

 木田は北海道の洋画壇を代表する作家のひとりで、1893(明治26)年に岩内町に生まれ、漁夫画家として絵画への道を志した。有島武郎の勧めで岩内に留まり絵筆を握ることを決意。有島が『生れ出づる悩み』を発表すると、モデル画家として知られるようになった。漁師を続けながら岩内の自然を描き続け、有島の没後は漁業を捨て画業にのめり込んだ。

 しかし、1954(昭和29)年の岩内大火で描きためていた約1500点を焼失。妻・文子の励ましで立ち直り、再び創作を始め独自の画業を確立したが、62年(昭和37)年に脳出血のため69歳で亡くなった。

 斉藤さんは東京で大学生活を送っていた20歳の時に有島の『生れ出づる悩み』を読み、「故郷に昔、こんな青年がいたのか」と衝撃を受けた。その後、足の筋肉が萎縮する病にかかり、大学を辞めて帰郷し手術を受けた。その頃、岩内の隣の泊村に原子力発電所の建設が決まり、斉藤さんは原発の温排水の影響を調べるため、25歳の時から岩内港の防波堤で海水温の測定を始めた。

 その後、町営の保育所で保父として働き始めると、偶然にも所長は「小さい頃から木田金次郎に可愛がられていた」という人物。所長は兼業農家の出身で、木田は所長が少年だった頃にリンゴの絵を描きにきていた。少年が「腐ったリンゴだ」と笑うと、木田は斜めなどいろいろな角度から見るようにとアドバイスした。そうするとリンゴは生き返ったように見えたという。

 斉藤さんは、小説のモデルとなった木田がどのように生き、絵を描き続けたのか。その原動力を知ろうと、97年に木田の一生をまとめた『青い太陽』を自費出版した。この作品は評判を呼び半年で1000部を売り切った。さらに、2007年の54歳の時には木田の評伝『木田金次郎 山ハ空ヘモレアガル』を北海道新聞社から出版した。

岩内町の市民科学者・斉藤武一さんが木田金次郎の絵本を出版  地元の画家の業績を一冊に
斉藤さんが模写した「絶筆/バラ」

 今回の絵本は、以前に制作した紙芝居を撮影した約50枚の写真を見つけたのがヒントとなり、9月に『木田金次郎の絵本』として完成させた。作品中に掲載している「波」「夏の岩内港」「絶筆/バラ」など木田の作品15点は、斉藤さんがマジックで模写したもので「実際に自分で描くことで、木田が目指した色線は彼の頭の中で緻密に計算していたことが分かり、圧倒されました」と振り返っている。

 絵本は斉藤さんと木田との“出会い”をつづった16の「プロローグ」と本人の生涯を追った38の「本編」の2部で構成。プロローグでは、先述の木田と保育所長のエピソードなどを交えながら木田の教えである「試練や困難を乗り越え、立ち止まることなく、前へ行け」「志は、最後の最後までつらぬけ」という言葉を紹介。

 本編では、詳細な調査、取材から得た情報から木田の足跡を辿っている。妻の文子と結婚する時には実際より3歳も若い46歳と年齢をごまかしていたという微笑ましい話。岩内大火で長年描き続けてきた絵が消失し落胆した木田に、文子が「その腕を捨てるのですね」という言葉をぶつけるシーンも描かれており、真新しいキャンパスを抱え港で描いたのが「大火直後の岩内港」だった。

「木田は68歳になると、『生れ出づる悩み』のモデル画家と呼ばれても構わないと言うようになった。重い十字架から解放され、乗り越えたのだと思います」(斉藤さん)

 木田は文子が好きだったバラの花を数多く描いており、絶筆になったのも「バラ」だったそうだ。

 今年は木田が亡くなってから60年。さらに有島がニセコの有島農場を開放してから100年になる。「若くして有島武郎の小説のモデルとなった木田金次郎。2人の交流から生まれた小説と絵は今も生き続けている」と斉藤さんは話している。(あ)

『木田金次郎の絵本』は100部出版、1冊1800円。送料は1冊200円、2冊以上は400円。
問い合わせは斉藤さんへ。
岩内町大浜61の5(☎0135‐62‐9526)



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