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2021年11月24日

「ガンダム」の富野監督、札幌で大いに語る

「ガンダム」の富野監督、札幌で大いに語る
記者会見に応じる富野由悠季監督(11月17日、北海道立近代美術館のオフィスで)

 11月17日から来年1月23日までのおよそ2カ月間にわたり、札幌市の北海道立近代美術館で開催している企画展「富野由悠季の世界 ガンダム、イデオン、そして今」(主催/HBC北海道放送、北海道新聞社)。その看板たるアニメーション監督・富野由悠季氏(80)が来札し、17日の開会式に出席した。

 同式典の模様や企画展の詳細については既にさまざまな媒体や公式サイトなどで紹介されているが、本稿では開会式後に行なわれた富野氏への記者会見の内容を収録する。そこでは、若い才能の成長に期待しながらも、自身のフィールドであるアニメ界は元よりさまざまな分野で世界に遅れをとっている日本のこれからについて、力強く問題提起。いわゆる“富野節”が炸裂した。

「ガンダム」の富野監督、札幌で大いに語る
左からHBC北海道放送の勝田直樹社長、富野監督、北海道立近代美術館の立川宏館長によるテープカット

北京のアニメに負けてしまうぞ

 ──これまで安彦良和氏(遠軽町出身、「機動戦士ガンダム」ではキャラクターデザイン、作画監督を担当)、湖川友謙氏(遠軽町出身、「伝説巨人イデオン」や「聖戦士ダンバイン」のキャラクターデザインを担当)、安田朗氏(釧路市出身、「ターンエーガンダム」のキャラクターデザインを担当)と北海道出身のクリエイターと作品づくりする機会が多かった印象ですが、北海道のクリエイターについて思うところをお聞かせ下さい。

 富野 3人がいずれも北海道出身というのは、言ってしまえばたまたまだったのかな、という受け止めです。ただ時代としては安彦と湖川は同時期。安田はその20年後に出てきた人物です。感覚的に北海道は冬場、雪に閉ざされてしまうから、家の中で出来ることとして絵を書く。そんな地域性はあるのかな、と思ったことはあります。

 先程、時代の話をしましたが、安彦、湖川の時代はアニメがようやく定着し始めた頃でした。なので彼らはアニメーターというよりは絵描き。一方、安田の場合はアニメの世界からもきちんとした絵描きが生まれてくることを教えられました。

 開会式で、北海道在住の畑めいさんが小学生の時に制作し日本一の評価を得たガンプラのジオラマ(展示作品はガンプラビルダーズワールドカップ2015のジュニア部門で日本大会優勝、世界大会で2位を受賞した「ラストシューティング」)が展示されているのを嬉しい出来事として紹介しましたが、小学生であれほどのものが作れるのは一体何なんだろうか、ともつくづく思いました。絵画的なレベルでのセンスがとても高いんです。ああいった作品を見た時に、アニメやコミックといったものがすっかり文化として定着してしまって、殊更アニメだから、マンガだからと言われることがなくなったのが、安田の時代に起きたのだと思っています。

 そうした中で日本のアニメの趨勢はどうなっていくのかと考えると、デジタル技術の進化に伴って今、アニメ業界は危機的状況にあると感じています。

 その例としてミュージックビデオ(MV)。とても人気な某アーティストは自ら楽曲を作り歌うのみならず、アニメーションを多用したMVも自主制作している。アニメ界の人間としては、アニメまでやるのかとムカっとしていますよ。ただそうした動きは、デジタルアニメが個人のレベルで制作できるようになったということ。それに対し、シリーズ物やストーリー物を手掛けている日本のアニメプロダクションはどう認識しているのか。

 僕が参加しているサンライズに関しては、先に触れた兆候に対してちょっと無関心なところがあるのでは、と気になっています。例にあげたMVのようにアーティスティックな面でかなり高度なものが要求され始めている中、新しい才能も求められている。だからこそサンライズには、そういった才能を探す行動を積極的にして欲しいと思っており、併せてそれは僕自身の任務でもあるのだろうと受け止めています。

 しかしながら、基本的に年寄りの価値観を持ち込むのはやめて欲しい。言うなれば、僕に意見を言わせないプロダクションワークを確立していかなくちゃいけない。

 加えて、個人レベルでデジタルアニメが作れるようになったと言っても、個人で作ったものは詰まる所私小説のようなもの。スタジオワークの作品があるというのは、やはりオープンエンターテインメントも求められているからです。

 個的な作業にあまり熱を入れないで、スタジオワークに戻ってきて欲しいなと、それぞれの分野のアーティストに対してお願いすると共に、デジタルに傾倒していく世代へは、社会性を持って仕事をすることを忘れないでいただきたい、と忠告しておきます。

「ガンダム」の富野監督、札幌で大いに語る
「ガンダム」の富野監督、札幌で大いに語る
富野監督が見て「嬉しかった」と話した、畑めいさん作「ラストシューティング」と、制作当時の様子

 アニメの趨勢というところで、はっきり脅威に感じているのは北京発のアニメーション。かなり洗練された商業作品になっています。

 僕は10年前、北京大学で講演をしたことがあるのですが、アニメ同好会などそこに集まった人数は相当なものでした。その彼らが10年の月日を経てプロになった訳です。怖いのは北京大学という名門出のインテリがアニメの世界に入ったということ。

 加えて中国は国家としてもアニメ界に相当の支援をしている。かたや日本の政治家は、アニメを30年前、40年前の感覚で捉えている節が見受けられる。

 日本はビジネス一辺倒の視点でアニメ作りをしていると、北京の彼らに完全に負けてしまうぞ、という危機感があります。でも自分の講演を聞きに来ていた彼らに、そこまで塩を送ったつもりはないし、負けたくない。

 しかしながら、日本はもうアニメ先進国ではなくなった、という認識は持って欲しい。にも拘わらずメディアやビジネス界がその認識でいるのは杜撰というものです。

富野の時代にとどまってたまるか

 ──開会式で新しい時代を切り拓くのは新しい芽、と話されていましたが、そういった若い方々にどういった目線で展示会を見て欲しいと思っていますか。

 富野 このタイトルの展示を見に来てくれるファンというのは、基本的にアニメとか富野の仕事とかを知っている人々だと思っていますから、それについて説明する必要はありません。当事者としては、回顧として見るとそれなりに面白いだろうと思っています。

 この展示会について、僕はプランニングに一切関与していません。7名の学芸員の方々がそれぞれ守備範囲を決めて、それを一堂にまとめて展示するという手法を取っています。そうしたことで、富野の作品だけを取り上げてもここ50年くらいのアニメ史を俯瞰できるようになっています。正直なところ自分自身が回顧しても、何でこういう仕事ができたのか分からないんです。そして良さもあれば、まずさも包み隠さず見せている。僕にとっては本当に襟を正される思いです。

 僕としては富野展を見て、「こんな古くさいのは、もう見ていられない」という考えの若い人たちが出てきて欲しい心境なんです。古い人たちは懐古趣味で良いですが、若い世代には「富野の時代にとどまっていてたまるか。冗談ではない」といった気持ちに。

 今回の展示はいわば、富野由悠季の世界の地盤が見える内容。それを足場、或いはスプリングボードに使って欲しいんです。

 この程、文化功労者に選出されたことについて、「何なんだ」と僕自身考えました。それで分かったのが、「巨大ロボットを意識して作品を作らなくて良かった」ということ。公共の電波を使っているのだから、おもちゃ屋さんのスポンサーに向けた作品だけを作っていてはダメだ。作品にはしっかりしたストーリーがあるんだ、と。ですからストーリー性や世代間というものをすごく重要視して作品を作っています。殊更ガンダムのことを言われますが、1/1のガンダムを作りたくてあの作品を作ったんじゃない。あの巨大兵器を作らされた社会構造や戦争の構造、つまりは社会性がしっかり見えるように作品を作った。これはガンダム以外の作品でも絶えず意識してきたものです。その読み解きが文化論にも繋がったのだろうと自己評価しています。

 先に触れた社会性についてですが、これをより易しく言い換えると「子供向け」に作品作りをしてきたということです。

 と言うのも、子供には絶対に嘘は付けない。子供だましの作品を子供は見放します。だから見放されないために、作者は全身全霊というか全体重をかけてものづくりをしなければならない。その点は、「海のトリトン」以来作品制作で守ってきたことでした。それが今回の文化功労者選出につながったのかなと。

 先に触れた、若い世代には富野展を足場にして、古いものを一蹴し新しい在り方を築いて欲しいという話。地球環境問題では若い人たちが声を出し始めたが、おそらく20年ないし30年後くらいに新しい才能の政治家や経済人が現れてくるんじゃないかな、と思っています。いわば中世から全く変わっていないような論理やビジネスの在り方を見ると、やはり現状は「オールドタイプ」の世の中と捉えていますが、それを打破する才能が沢山出てきて初めて、「ニュータイプ」の時代の到来と呼べるのだろうと思っています。

「ガンダム」の富野監督、札幌で大いに語る
展示会場の一部

 ──コロナ禍がアニメ界に与える影響と、今後どのような作品が生まれ、業界はどう変わっていくとお考えですか。

 富野 書評などを読むと、文芸の世界ではここ半年くらい前からコロナ禍を意識した出てきているようです。これはコロナ禍という時代に対応した新しい才能が出てきていることと思ってください。

 若い世代であればあるほど、コロナ禍に対する脅威への感度が、おそらく中年の人以上に高いんじゃないのかなと感じます。だけどメディアも含めて、若い人の言葉を掬い取ることはしませんよね。いわゆる見識者の意見を掬い上げるようなことはやっている。でもこれは懐古趣味に結局陥るか、過去の方法論を投影するだけのものになってしまう気がする。実をいうと、国がやっている施策自体が過去論の学習でしかないような気もしています。尚且つそれは本来、平時の時に改善しなくちゃいけないことだった。それがコロナ禍中で噴出したということは、平時に政治家は何も考えていなかったということです。

 保健所の予算を平気で削ったりしたために、コロナで大騒ぎになっても肝心の保健所職員がいないという事態になった。或いは病気に曜日は関係ないのに、保健所は土日にしっかり休んでいたり。つまりは政治家にそういった危機意識がこれまでになく、その軌道修正に1年半費やしたのが現状です。

 だからこれ以後は、今までの経験をきちんと共有していかなければならないのですが、それはもう現実的に、若い世代に担ってもらうほかありません。

 無免許運転で人身事故を起こしても辞めない都議会議員然り、たった1日出てきただけで1カ月分100万円の文通費(文書通信交通滞在費)を支給する国会議員の制度然り、ああいうのを平気で放置しておける神経は、全部大人の感覚なのですから。

 約40年前、「機動戦士ガンダム」で最初に発せられた言葉は、「人類が増え過ぎた人口を…」です。その問題意識を持てば良いだけの話なんですが。

 僕は20年前にガンダムの制作を辞めましたが、その一番の理由はガンダムが世に出て20年経っても、(実在の)政治家のレベルは下がる一方で、それに対する悔しさから。文芸とかアニメというものは、意見を発しても無駄な媒体なのか。自分には力がなかったという反省からです。

 ですが先にも触れた、文化功労者選出の理由を考えた際、自分の作品は発言する媒体としてあって良いという承認を得たのではないのかと。だからこそ、そういう行動は積み重ねていくしかないのかなと。それは富野由悠季の世界展からも教えられたことではあります。

 アニメを軸にした創意の発動というものは、ただただアニメが好きなだけ、といったところから作るのではなく、やはり社会性を帯びたものを作るという思いも、大事にしていって良いのかなと思いました。

 ──これから作りたい作品のコンセプトなどあれば教えて下さい。

 富野 …。敢えて、馬鹿なことを言うんじゃない、と言わせてもらいます。僕は現在80(歳)ですからね。

 ──とはいえ作家ですから。

 富野 勘弁してください。作家だったらとっくの昔に、芥川賞、直木賞とは言いませんが、その立場で何らかの賞は取っていますもの。そういったものが取れなかったことへの悔しさが本当にあります。結果としてアニメの仕事しかできなかった。だから格好つけざるを得なかったんです。でもそれは多少情けない。ただ「いや、そうじゃない」という声があることも嬉しく思っています。

 そして今は、「アニメも表現媒体として認識されている時代になってきているんだから、へりくだっちゃいけない。そして絶えず周囲に対してはお礼を言いなさい。ありがとう、と言っているのが一番無難なんだから」と妻から叱られる日々を送っています。

 ──ありがとうございました。
(構成・髙橋貴充)






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