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2021年07月30日

本誌公式ブログ特別公開 くつした企画没ネタ供養シリーズ 第1回 三笠で遭遇した、能面を売る謎の薬局(後篇)

本誌公式ブログ特別公開 くつした企画没ネタ供養シリーズ 第1回 三笠で遭遇した、能面を売る謎の薬局(後篇)
三笠で見かけた謎の薬局(写真は一部加工しています)

 自称“無節操制作団体”、くつした企画による没ネタ供養シリーズ第1回「三笠で遭遇した、能面を売る謎の薬局」の後篇をお届けする。ロケハンで三笠市に入ったくつした企画が、そこで遭遇したものとは…。

本誌公式ブログ特別公開 くつした企画没ネタ供養シリーズ 第1回 三笠で遭遇した、能面を売る謎の薬局(後篇)
炭住には石炭ストーブの煙突がつきものだった

 まずは腹ごしらえをしてから各所を回ろうということとなり、市役所近くに車を停めて目抜き通りを歩いてみることにした。お目当てはなんこ定食。馬の腸の味噌煮込みだ。実を言うと初体験ではない。以前、同じくかつて炭鉱で栄えた町、美唄のスーパーで冷凍の馬の腸が売られていたのに興奮して衝動買いをし、自宅で『なんこ』を作ってみたことがあるからだ。豚のそれで作るような無難な味噌仕立てにしたためおいしかったのだけれども、いかんせん本物のなんこをたべたことがなかったので正解が分からない。

 以来、ずっと地元に根付いた『なんこ』を食べる機会をずっと狙っていたのだ。お目当ての食堂に至る通りにはいくつかの店が軒を並べていた。

 まず通りかかったスナックは、昼は喫茶店として機能しているらしく、黒い遮光フィルターが一面に張られた入り口のガラス戸には『アイスコーヒーはじめています』とある。告知のタイミングを逸してあとからあわてて掲示したのか、なんとなく面白くないような、ふてくされたような雰囲気があっていい表現だ。今度使わせてもらおう。

 さらに件の食堂まで1ブロックという辺りには1軒の古い薬局があった。いまどき珍しい個人経営のしつらえだ。調度の色は薄いブルーで統一されており、懐かしい清潔感がある。風情のある建物だな、と通り過ぎたあと、違和感に気づいて慌てて駆け戻り、入り口の上に掲げられた看板を見上げた。

 確かに『薬舗』とある。うん。確かに。よしよし、とうなずいてショーウィンドウの中をもう一度覗き込んだ。やはりおかしい。ライトブルーの棚に整然と並べられているのは、栄養剤でも頭痛薬でもなく、能面だった。恐る恐る店内を覗き込んでみたが、中には薬のくの字も見当たらない。殺風景な元薬局内の一角には作業台があり、木屑とノミ槌が置かれていた。この奇妙な施設の主は席をはずされているらしい。不在である以上、店の中に入るのは無礼と言うものだろう。後ろ髪を引かれる思いでその場を去り、食堂に向かった。

『なんこ』は意外にもにんにくと唐辛子を利かせた異国情緒あふれる現代的な味つけだった。じっくり噛んでいると、パンチのあるエキゾチックな味噌味の奥にほどよく野生的な角のある香りが感じられ、ああ、自分は馬の内臓を食べているのだな、と嬉しくなる味わいだ。

 それにしてもあの薬局は一体なんだったのだろう。理想の環境を求めて道南の小さな町にたどり着いた能面師。あるいは伝統文化にあこがれて能面師を目指す地元の若者か。いや。ひょっとするとあのお店は確かに薬局で、この地域には面をかぶる事で病を癒す独特な民間療法が伝わっているのではないか。

 そのほうが絶対面白いので、そういうことにしよう。不在だった店主は、三笠でも有数のウィッチドクターに違いない。なにせ市役所に面するメインストリートに薬局を構えるくらいだから。きっと三笠の市立病院にもたくさん能面を卸しているはずだ。そうやって健康を保ち続ける三笠の人々は年に一度、森の中で薪能を舞って癒した病を異界へと送るのだ。だからこれ以上この町の秘密にヨソモノが深入りしてはいけない。この秘密を知ったら、あの薬局の能面師にお面にされるか、能面師のあとを継がされるからだ。

 そんなことを考えてにやにや笑いながら楽しく馬の腸を噛んでいたら、同行者に、「そんな幸せになるほどおいしいの?」と聞かれた。そう言う彼はホルモン定食を食べている。けしからん。三笠に来たらなんこを食え、なんこを。

 結局帰り道も主の正体が知れると面白くないのでわざと薬局の前を通らず、それ以来あの場所には訪れていない。(た)




Posted by 北方ジャーナル at 13:46│Comments(0)
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