2021年06月10日
【本誌7月号から特別先行公開】紋別沖合で起きた漁船転覆事故は、ロシア船の“目隠し航海”が原因か
衝突で第八北幸丸の左舷から船底にかけてできた大きな傷(紋別漁協提供)
「もう海も自分の船も見たくない。漁師として廃業を考えている」
ロシアのカニ運搬船「アムール」(662トン)に衝突され、乗組員3人(機関長1人・甲板員2人)が死亡した紋別漁協の毛ガニ漁船「第八北幸丸」(9・7トン)の吉岡照由船長(63)は、事故から2日後の5月28日午前、記者の取材に悲痛な声を絞り出した。
それはあっという間の出来事だった。5月26日午前4時頃に出港した紋別漁協の毛ガニ部会の船団(6隻・神敏雄船団長)は1時間ほどで紋別港北東約23キロの沖合に着くと、いつものように操業を開始。出港当時とはうって変わり辺りに濃霧が立ち込める中、第八北幸丸は甲板員がロープに繋いだカニ籠を海中に降ろす作業を始めていた。
「衝突された時、自分は操舵室の中に居たが、霧の中からいきなり大きな船が現れ次の瞬間にぶつかっていたという感じだ。大きな衝撃とともに船が横倒しになり、夢中で操舵室の扉を開けて外に出たが、そのまま海に投げ出されてしまった。浮き上がると、近くにひっくり返った自分の船があったので船底に這い上がった。そばに仲間の姿(佐藤圭吾さん・36)が見えたので引っ張り上げ、他の3人の姿を必死に探したが、そのうち、ぷかりぷかりと波の上に浮いてきて…」(吉岡船長)
吉岡船長以下5人は、停船したアムールにまもなく救助されたが、死亡した3人は救助直後から心肺停止状態だったもようだ。
紋別港に陸揚げされた「第八北幸丸」(紋別漁協提供)
事故発生以来、関係機関やメディアへの対応に追われた紋別漁協の飯田弘明組合長は5月28日、記者に次のように無念の思いを口にした。
「第八北幸丸は、吉岡船長のもとで乗組員が家族のように和気あいあいと漁に取り組んでおられた。今回の事故は本当に気の毒で、かける言葉も見つからない。どうして衝突したのかはよく分からないが、漁は夜間に行なうこともあり、海上はガス(霧)がかかることもあるので、見張りによる目視だけでは危ない。レーダーをちゃんと見ていれば衝突は避けられたはず」
また飯田組合長は第八北幸丸の損傷状態について「(ぶつかった)左舷と右舷両方に傷がある」とし、「ひっくり返った船底の上を(ロシア船が)通り過ぎたのではないか」とも指摘した。
「第八北幸丸は信号を出していなかったとロシア側が主張している旨の報道があったが、漁船は普段から操業中には電波などは出していない」
こう話すのは近隣漁協の幹部だ。
「私たちの浜でもこれまで過去にロシア船とのニアミスすることはあった。安全な航行するうえでの基本は目視とレーダーによる監視。今回の事故では紋別港に向かうロシア船が操業中の第八北幸丸にぶつかっており、通常ならありえないケースだ」
紋別港は、サハリン方面から海産物を運んでくる大型船の寄港地で、多くのロシア船が行き交うことで知られる。関係者の話から以前から潜在的な危険があったことがうかがわれるが、国際規則に準拠した海上衝突予防法は、航行中の船は漁業に従事している船を避けなければならないと定めている。今回の事故では、ロシア船がいわば目隠し状態で漁船に体当たりした可能性が強く疑われるところだ。
この中で本稿〆切直前の6月7日、適切な監視を怠り漁船乗組員を死亡させた業務上過失致死の疑いで、紋別海保がロシア船の航海士を逮捕したというニュースが飛び込んできた。
ところで今回の衝突転覆事故の2日後、5月28日午前10時頃、稚内市の沖合で操業中だった底引き網漁船がロシア警備局に警告射撃を受けたうえ拿捕され、乗組員14人がサハリン州コルサコフ港に連行されるという事件が起きている。ロシア側の排他的経済水域内で違法操業したとの理由だが、底引き網漁船が所属する稚内機船漁協では「日ロの境界ラインは越えていない」と主張しており、言い分が真っ向から対立している状態だ。
この拿捕が、紋別の事故でセルゲイ・カルタビー船長らロシア人が日本国内で取り調べを受けていることに対する「人質外交」でないことを祈るばかりだ。
【追記】この事件では第八北幸丸の吉岡船長も同容疑で書類送検されとの報道が6月8日以降あったが詳細は不明だ。(く)
「衝突された時、自分は操舵室の中に居たが、霧の中からいきなり大きな船が現れ次の瞬間にぶつかっていたという感じだ。大きな衝撃とともに船が横倒しになり、夢中で操舵室の扉を開けて外に出たが、そのまま海に投げ出されてしまった。浮き上がると、近くにひっくり返った自分の船があったので船底に這い上がった。そばに仲間の姿(佐藤圭吾さん・36)が見えたので引っ張り上げ、他の3人の姿を必死に探したが、そのうち、ぷかりぷかりと波の上に浮いてきて…」(吉岡船長)
吉岡船長以下5人は、停船したアムールにまもなく救助されたが、死亡した3人は救助直後から心肺停止状態だったもようだ。
紋別港に陸揚げされた「第八北幸丸」(紋別漁協提供)
事故発生以来、関係機関やメディアへの対応に追われた紋別漁協の飯田弘明組合長は5月28日、記者に次のように無念の思いを口にした。
「第八北幸丸は、吉岡船長のもとで乗組員が家族のように和気あいあいと漁に取り組んでおられた。今回の事故は本当に気の毒で、かける言葉も見つからない。どうして衝突したのかはよく分からないが、漁は夜間に行なうこともあり、海上はガス(霧)がかかることもあるので、見張りによる目視だけでは危ない。レーダーをちゃんと見ていれば衝突は避けられたはず」
また飯田組合長は第八北幸丸の損傷状態について「(ぶつかった)左舷と右舷両方に傷がある」とし、「ひっくり返った船底の上を(ロシア船が)通り過ぎたのではないか」とも指摘した。
「第八北幸丸は信号を出していなかったとロシア側が主張している旨の報道があったが、漁船は普段から操業中には電波などは出していない」
こう話すのは近隣漁協の幹部だ。
「私たちの浜でもこれまで過去にロシア船とのニアミスすることはあった。安全な航行するうえでの基本は目視とレーダーによる監視。今回の事故では紋別港に向かうロシア船が操業中の第八北幸丸にぶつかっており、通常ならありえないケースだ」
紋別港は、サハリン方面から海産物を運んでくる大型船の寄港地で、多くのロシア船が行き交うことで知られる。関係者の話から以前から潜在的な危険があったことがうかがわれるが、国際規則に準拠した海上衝突予防法は、航行中の船は漁業に従事している船を避けなければならないと定めている。今回の事故では、ロシア船がいわば目隠し状態で漁船に体当たりした可能性が強く疑われるところだ。
この中で本稿〆切直前の6月7日、適切な監視を怠り漁船乗組員を死亡させた業務上過失致死の疑いで、紋別海保がロシア船の航海士を逮捕したというニュースが飛び込んできた。
ところで今回の衝突転覆事故の2日後、5月28日午前10時頃、稚内市の沖合で操業中だった底引き網漁船がロシア警備局に警告射撃を受けたうえ拿捕され、乗組員14人がサハリン州コルサコフ港に連行されるという事件が起きている。ロシア側の排他的経済水域内で違法操業したとの理由だが、底引き網漁船が所属する稚内機船漁協では「日ロの境界ラインは越えていない」と主張しており、言い分が真っ向から対立している状態だ。
この拿捕が、紋別の事故でセルゲイ・カルタビー船長らロシア人が日本国内で取り調べを受けていることに対する「人質外交」でないことを祈るばかりだ。
【追記】この事件では第八北幸丸の吉岡船長も同容疑で書類送検されとの報道が6月8日以降あったが詳細は不明だ。(く)
Posted by 北方ジャーナル at 00:09│Comments(0)
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