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2010年03月18日

吉田戦車『出前姫』

吉田戦車『出前姫』
全1巻、初版発行10年02月23日、エンターブレイン、本体750円税別

北方ジャーナル2010年4月号掲載のコラム『小笠原淳のたまにはマンガも読みたまえ!(第49回)』より転載。


民話の人が紡ぐ壮大なる“出前”譚
交錯する興奮と脱力、堪能あれ


 副題の「民話ボンボン」というのは作品のシリーズ名なのか単行本の分類なのかあるいはほかの何かなのか、よくわからないが、いかにも吉田戦車は民話の人に違いない。商業誌デビュー作(ではなかったかもしれないが)の短篇はロボットになった男子高校生と人間の女子高校生との恋愛譚だったが、あれもSFというより民話だった。というより、SFにはだいたい民話の要素が詰まっているのだが。

 縫い物をする母の肩に小人が載っている、という場面を描写しただけの『肩守り』という掌篇もあった。「蝶犬」という架空の神事を巡っての騒動を綴った『ちょうちょをとる』は、その舞台が東北地方のどこかと思しい過疎地で、時代設定こそ曖昧だったものの、そこここに民話の匂いが醸されていた。

 それらの短篇にみられた抒情こそ前面に出ていないが、しかし本作も民話のひとつと言ってよいだろう。


《民話というよりは、ファミコン時代の素朴なRPGへのなつかしい思いをひっぱりだした連作となった》(151頁「あとがき」)

 著者自身はそう言っているが、話の中身は典型的な英雄譚である。そもそもロールプレイングゲームが典型的な英雄譚なんだから、という指摘ができるのかもしれないが、そのあたり、RPGを一度もやったことがない評者はよく知らない。

 で、どういう話か。出前姫という名の王女が、父王の命で遠方に料理を出前する、という話である。

「厨房王」アワビ三世が治めるあわび王国は、食堂国家として栄えていた。長い平和を謳歌していた王国に、20年ぶりに届いた出前依頼。発註したギリギリ王国は「どんなに急いでも馬でひと月」の距離にあり、道のりにはさまざまな危険が横たわる。しかし、王家への出前に兵を出すことは許されず、予言者の託宣で16歳の出前姫に使命が下されることに。行く手に立ちはだかる悪霊妖魔。若き姫は、無事にできたての料理を届けることができるのか──。

 などと解説してしまったが、こういうお話を粗筋で紹介しても仕方がない。めくるほどに阿呆らしい一頁一頁、ひと齣ひと齣に興奮するなり脱力するなり、およそ何も考えずに物語を味わうのが正しいのだ。主人公はだいたい何の脈絡もなく危機一髪のピンチに遭遇し、だいたい偶然の好運で切り抜ける。そこにかかわる謎の登場人物たちの描写が秀逸だ。中盤で登場するピンピン人の即興歌など、吉田戦車の本領を堪能できる場面には事欠かない。

 いつの間にやらデビュー四半世紀。この間、読者の世代が交代しているのかいないのか、変わらず現役第一線で支持され続けていることは、笑いの作家としてはそれだけで偉業と言える。あるいはそれも、民話の需要ゆえなのか。

北方ジャーナル2010年4月号掲載のコラム『小笠原淳のたまにはマンガも読みたまえ!(第49回)』より転載。




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