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2009年07月21日

子供を見れば親の離婚がわかる

子供を見れば親の離婚がわかる

田下昌明氏の「今こそ育児を見つめ直そう」(第5回)
※前回記事はコチラ
※この記事は北方ジャーナル2009年1月号に掲載されたものを再構成したものです。


◆放っておけば子供は伸びる?◆

 ──生後6カ月目くらいまでに、母子の関係が密度の濃いものにならなければ、愛着行動のスイッチがうまく入らないということですね。

田下「話が急に飛びますが、そのような理論からするとスポック(※注)の言う『6カ月経ったら赤ちゃんは親から離れたくなる、だから放っておきなさい』ということと対立してくるんですよ。ローレンツ、ボウルビィ(※注)の理論では少なくとも2歳半までは親にくっつけておかないと、どこかに欠損が生じるということですから。ただ、そうなると母親は子供を産んだら3年間は働けなくなります。戦後、高度経済成長で女性の労働力を引っ張り出そうとしたときに、その目的と反する育児論ということになるんです。その意味では半年で女性が子育てから開放されるスポックの育児法は都合が良かった。『保育所に出したほうが子供は早く成長する』みたいなことがまことしやかに言われるようになって、それが今の保育行政に大きな影響を与えていると思います」

 ──スポックはデューイ(※注)の思想を具現化した人物ですが、そもそもデューイはなぜ母子を分離するような教育方針に辿り着いたんでしょうか。

田下「後になって分かったことなんですが、デューイの実験学校には上流階級の子供しか通ってなかったんです。放っておけば才能が花開いたというのは、その子供たちにもともと家庭で非常に高いレベルの教育や躾がなされていたからで、たしかにそれなら黙っていても育ちますよね。デューイの学校には小綺麗な子ばかりでそのへんで鼻たらして走っているような子は全然いなかったんです」

 ──いわばスタートから間違っているような育児法が日本の子供たちに影を落としてしまったと。そしてその経過を田下さんは診察室のなかで感じてきた。

田下「ちょっと話が逸れますけど、診察室で私はお母さんと子供には会うんですけど、お父さんにはよほどのことがないかぎり会うことはないんです。でもね、その子供とお母さんの雰囲気から『ん? この夫婦は離婚するんじゃないか』と思うことがあるんですね」

◆母子の様子で離婚が分かる◆

 ──そりゃまたギクリとしますね。私の家族を田下さんに会わせるのが怖くなってきた(笑)。

田下「的中率は80%以上ですよ。カルテに書くわけにもいきませんけど(笑)」

 ──そんなに!

田下「母子を見ていると、お父さんが妻である母親を守っているか、労っているかというのがすぐ分かります。そして、夫婦仲がうまくいっていない家庭というのは、母親の不安な気持ちが子供の心身に反映されるんです。母親と子供はプロジェクターとスクリーンみたいなものですから、父親が母親を不安にさせたらその不安が子供に投影される。そうして子供は精神的な病気になるかといえば実はそうでもないんですね。風邪や腹痛など、ごく一般的な病気になりやすくなるんです。考えてみればごく自然なことで、心理的に不安定だと病気をはねつけるバリアも薄くなったり破れたりして、ウィルスなどの侵入を簡単に許してしまうんですよ」

 ──これまで自分自身の子育てを振り返ると、なんだか思い当たる節がある話ですね。ところで、著書の中では生後の育児だけではなく、妊娠している頃から育児は始まっているという視点を高らかに打ち出されていますよね。これから子育てを考えている読者にこれはぜひ知っておいてほしいと思いました。

田下「60年代頃から医療の分野でさまざまな道具が発達しましたよね。それを使うと胎児の様子が手に取るように分かるようになり、胎児に母親の心理や動作、音や光がどんな影響を与えるのか、つぶさに観察できるようになってきました。そして、子宮内の胎児の様子に関する研究も急速に発達しました。胎児は大雑把に言うと満4カ月を過ぎると感覚器、つまり目、口、鼻、耳が我々と同じくらいまで発達します。出産までの残りの期間は言ってみればその使用トレーニングをしているようなものです。満7カ月を過ぎた頃には、たとえば『おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました』という程度の文章なら胎児は覚えてしまうんですね。さらに、生まれて5分か10分で同じ文章をお母さんが読んであげるとこっちを見て聞こうとするんです。文章を下のほうから逆に『たしまきいにくたんせ』(『洗濯にいきました』の逆さ読み)などと読んでいったら全く興味を示さない」

◆驚くべき胎児の能力◆

 ──胎児は聞いていて、きちんと覚えてもいるという証明ですね。

田下「同じような例で、フランス人のお母さんが妊娠中に英語ばかり話している会社に勤めていて、生まれてからフランス語で話しかけたら全然反応してくれなかったという話があるんです。言葉を覚える時期になってもさっぱり覚えないし、精神に障害があるのでないかとまで疑われたんですが、英語で話しかけたら難なく反応して言葉をスイスイ吸収していったということまで事実としてあるんです」

 ──お腹にいるうちから話しかけるということは我々が思っている以上に大事なことだと。

田下「母親の心理が胎児に伝わるチャンネルは3通りあって、ひとつは母親の動作。走ったり、逆立ちする物理的な動きです。もうひとつはホルモンで、たとえばカッときてアドレナリンが出るとかですね。そうすると胎児も怒ってお腹を蹴ったりしますよね。もうひとつは何とも説明がつかないんですけど、母と子の共感によるもの、私は“波動”と呼んでいます。これはどういうものかというと、たとえば最近の研究では胎児は母親の見る夢を通じて自分の状態を知らせることがあると言われていて、早産や流産、前置胎盤などが夢で事前に母親に知らされた実例はたくさんあります。胎児は知らせるだけではなく、母親のわずかな感情の変化も見逃さずに察知します。母親の喜怒哀楽はぜんぶ胎児に投影されて、母親が笑えば胎児も笑うし、母親が泣けば胎児も泣くんです。共感によるコミュニケーションと最も関係が深いと思われているものに、自然流産があります。自然流産の多くは医学的に何ら理由もないのに発生し、身体が丈夫で無事に子供を産める妊婦にも発生しています。ある研究者が400例以上の自然流産を調べてみると、子を持つというプレッシャーと、もしかしたら欠陥を持った子が産まれてくるのではないかという恐怖によって自然流産が引き起こされるという結論を出しています」

 ──母親が子を持つ責任を恐怖として捉えていると、胎児のほうで察知して『じゃあボクいなくなるね』と遠慮してしまうということですね。胎教といえば、胎児はモーツアルトは好きで、ベートーベンは嫌いという程度の知識しかありませんでしたが、それほどの一体感が母と胎児にはあるとは驚きです。

田下「聴覚の能力についてはこんな話もありますよ。ある交響楽団の指揮者が、ある曲の演奏のときなぜかチェロの部分だけは譜面をまったく必要としなかったんです。全部頭のなかに入っていて、その理由が自分でも分からなかった。でも、実はその指揮者の母親も音楽家で彼がお腹の中にいるときに同じ曲をチェロで練習していたんです。全部、胎内にいるうちに覚えてしまっていたということなんですよ。胎児にどういう刺激を与えたらどんな反応をするか、良い刺激や悪い刺激が何であるかがかなり分かって来ていて、胎教をやったか、やらなかったかという結果は絶大な差となって現れてくるんです」


 ──具体的に母親は胎児にどのように話しかけるのがいいんでしょう。

田下「毎日毎日、胎児に言ってほしいのは、いくつかあって、まず母となることの喜びと誇りを伝えてほしい。あとは最初にお話した3つの育児方針に添ったことを語りかけて、今日の出来事やお父さんの言ったこと、子供を愛しているということ、会うのを楽しみにしていること、さらにはお産が楽であるように手伝ってくれるよう頼むのもいいですね。何でも話しかける姿勢が大事ですが、逆に聞かせてはいけないのは人の悪口や怒鳴り声、胎児が嫌がるうるさい音、特にハードロックなどですね」

 ──日本の育児のなかでこれまで胎教というものは意識されてきたんでしょうか。

田下「戦前、日本の家庭というものは大家族が基本でしたから、黙っていてもいろんな人が妊婦の周りにいたわけです。それが話しかけたり、撫でたり、いろんな影響をちゃんと与えていたんですよ。でも、核家族化が進んで妊婦の周りに誰もいなくなってしまった」

 ──家にいても誰もいないし、外に出れば胎児が嫌がるような騒音というか、そんな音ばかりですからね。

田下「もともと意識もせずに存在していた日本の胎教は社会の変化の中でなくなってしまいました。でも、医療の発達によって胎教の効果がはっきりと分かったものですから、今になって海外から逆輸入したような格好になっていますね」


(つづく)

※この記事は北方ジャーナル2009年1月号に掲載されたものを再構成したものです。

(※注)
コンラート・ローレンツ(1903─1989)
オーストリアの動物行動学者。インプリンティング(刷り込み)の発見者で近代動物行動学を確立した人物として知られる。刷り込み現象の発見は、自らハイイロガンのヒナに母親と間違われたことに端を発したもの。

ジョン・ボウルビィ(1907─1990)
イギリスの医師、精神分析家、さらに母子間の絆研究の開拓者として知られる。第二次大戦後のイタリアで孤児院などに収容された戦災孤児の発達不全、罹患率、死亡率が問題となり、ボウルビィはその調査に携わった。51年、母親による世話と幼児の心的な健康の関連性についての論文を発表。これは親を失った子供たちへのWHOの福祉プログラムの根幹となった。58年には母と子の間にある生物学的な絆のシステムについて研究をまとめ、69年に『母子関係の理論』を出版。園中で新生児が最も親しい人を奪われ、不安定な新しい環境に移された場合に起きる発達の遅れや罹患率の上昇などを総称して「母性的養育の喪失」という言葉を使った。その言葉は、幼児に関わる専門職種の養成教育で必ずといっていいほど聞かされるものとなっている。

ベンジャミン・スポック(1903─1998)
アメリカの小児科医でベトナム戦争に反対し平和運動家としても活動した。46年に刊行(日本語訳は66年)した『スポック博士の育児書』は世界的ベストセラーのひとつに数えられる。42カ国語で翻訳され、世界中で5000万冊販売され聖書の次に売れた本とも言われている。母親への革新的メッセージである「自分を信じてください。あなたは自分が考えるよりはるかに多くのことを知っているのです」が有名。72年に人民党候補として大統領選挙に立候補したが落選している。

ジョン・デューイ(1859─1952)
アメリカの20世紀前半を代表する哲学者。プラグマティズムを代表する思想家で、実用主義などと訳されるプラグマティズムとは物事の真理を実際の経験の結果により判断し、効果のあるものは真理であるものとする考え方。20世紀初頭のアメリカ思想の主流となり、のちにアメリカ市民社会の中で通俗化され、ビジネスや政治、社会についての見方として広く一般化した。


子供を見れば親の離婚がわかる<田下昌明氏 プロフィール>
たしも・まさあき   1937年、旭川市生まれ。医学博士。医療法人歓生会豊岡中央病院会長。北海道大学医学部卒、同大大学院修了。日本小児科学会認定小児科専門医、日本小児科医会「子どもの心相談医」、日本児童青年精神医学会会員、日本家庭教育学会理事、北海道小児科医会理事





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