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2009年06月10日

紋別・安養園訴訟で却下された赤井前市長らの訴え

紋別・安養園訴訟で却下された赤井前市長らの訴え
地域の施設福祉の要となっている「紋別市立安養園」(市内大山町)

 前市長が現職市長を裁量権濫用のカドで訴える──。そんな異例とも言える民事裁判の一審判決が下された。

 紋別市(宮川良一市長)の老人福祉施設「安養園」(山本利幸施設長)の民間移管をめぐって、市の選定委員会により受託事業者候補者として選ばれながら最終的に宮川市長が不承認とした設立予定の社会福祉法人「福正会」側が同市を相手取り、不承認の取り消しを求めた訴訟で、旭川地裁は6月9日午後、原告側の訴えを棄却する判決を言い渡した。

紋別・安養園訴訟で却下された赤井前市長らの訴え
宮川良一市長(写真左)と棚橋総務部長


 湯川浩昭裁判長は、判決理由で「(市の決定は)行政処分性がなく、受託事業者と契約を結ぶ権限は被告(紋別市)の代表者にある」などと指摘。原告側の「不承認としたことは市長としての裁量権の濫用」との主張を退けた。これに対し原告側は直ちに控訴する方針を示し、前市長らが起こした行政訴訟はその舞台を札幌高裁に移す見込みとなった。

 紋別市では昨年2月、安養園の受託事業者の公募を実施したが、これに唯一応募したのが今回の被告で新設予定の社会福祉法人「福正会」だった。同会は市が設置した選定委員会で審査し受託事業候補者として選ばれたが、福正会の理事に前市長や元市幹部が名を連ねていることを理由に宮川市長が「市民の理解が得られない」などとして不承認としていた。

紋別・安養園訴訟で却下された赤井前市長らの訴え
一審で敗訴した赤井邦男前市長

 これに反発したのが福正会の理事予定者で前紋別市長の赤井邦男氏らだった。「自ら設置した選定要綱と選定委員会の決定を不承認としたのは、市長の裁量権の濫用」として理事長予定者の松野正吾氏とともに紋別市を昨年12月に旭川地裁に提訴し、年明け以降、公判が重ねられてきた経緯がある。

 判決によると「安養園の民間移管は、実質的には、被告と受託事業候補者とが対等な契約当事者の立場で契約を締結するものであり、私法上の契約という性質を有する」とされ、紋別市が福正会を不承認とした通知は「行政処分性を有しない」との判断が示された。被告である紋別市側の主張が全面的に認められた形だが、原告側の馬見州一弁護士(札幌弁護士会)は、「行政が応募要綱を定め、かつ設置した選定委員会で決めた受託事業者を市長が覆した。その通知になぜ行政処分性がないのか。とんでもない判決だ」と不満をあらわにし、赤井前市長も「こういう結果は予想外だった。市側の主張を丸呑みした判決は、我々にしてみれば門前払いのようなもので全く納得できない」と上告する意向を示している。

 前市長が現職市長を訴えた異例の行政訴訟の第1ラウンドは現職側の勝利に終わった形だが、この問題の底には、前回の市長選で激しく争った赤井邦男氏と宮川良一氏の根深い対立があるのは関係者の一致した見方だ。昨年の公募では、安養園の受託に向け、紋別市内で介護福祉施設を営む松野氏から協力を依頼された赤井氏らが事業に参画したのだが、これが宮川市長にとっては受け入れ難いものだった。選定委員会から審査結果の報告を受けた宮川市長は非公式に松野氏を訪ね、理事構成の見直しを打診したが、松野氏はこれを拒否。その結果、宮川市長は応募要綱にはない理事に関する条件、すなわち「前市長や元市幹部はNG」を持ち出して不承認という決定を下すに至ったという流れがある。

 本誌は、この安養園の民間移管問題について昨年8月号以来、折にふれてレポートを掲載し本ブログでも伝えてきたが、一貫して主張しているのは、この問題を政争の具にせず、紋別エリアにおける介護福祉施設の拠点をいかに維持・継続し、入所者と地域の期待に応えていくかを第一に考えるべき──ということだ。行政経営によって年間1億円近くもの赤字を出し、毎年一般会計から補填が繰り返されてきた「安養園」の運営を今後も担保するためには、適切な民間移管が必要であることは論をまたない。問題の核心は、その運営委託の相手が真に具備せねばならないものは何なのかということだ。

 国の無定見な介護福祉政策によって翻弄され、伸び悩む介護報酬のなかで四苦八苦する介護福祉の現場──。それを経営面も含めて維持し、なおかつ単純労働ではない心のこもった質の高いケアを実現してもらうために、当初から紋別市は心をくだいて応募要綱をつくり、市職員も含む選定委員会が一丸となって審査したはずではなかったか。

 今回の判決公判に先立つ6月7日、紋別市長選が告示されたが、宮川市長は無投票当選を果たし2期目へと漕ぎ出した。また再公募されていた安養園の受託事業者には4団体が応募していたが、4月28日に新設予定の社会福祉法人「慈愛会」が選ばれている。ちなみにこの「慈愛会」の理事長予定者は市内などオホーツクで2カ所の病院を運営している医療法人社団耕仁会の実質的代表者・曽我龍紀氏である。

 本誌は引き続き、この安養園問題の行方を注視していく。


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Posted by 北方ジャーナル at 17:01│Comments(0)編集長日記
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