2009年06月03日
カレスサッポロに訴えられた月刊誌「クォリティ」
提訴の原因となった「クォリティ」6月号の掲載記事
“医の巨人”と称され、医療界に何かと話題を提供している社会医療法人カレスサッポロ(札幌市)の西村昭男理事長が6月1日、地元月刊誌「クォリティ」を札幌地裁に提訴した。
訴訟の内容は、カレス側が5月中旬に発売された同誌6月号の記事によって医療法人の名誉を著しく傷つけられたとして、同誌の発行会社である株式会社太陽(札幌市・手小逹敬代表)に対して1100万円の損害賠償と謝罪広告掲載を求めたもの。カレス側は6月1日夕、記者会見を札幌地裁の記者クラブで開き、提訴に至った経緯などを説明。このニュースは当日夕方のNHKをはじめ翌2日朝刊で大手日刊紙が軒並み取り上げ、メディア関係者の間でもちょっとした話題になった。
地元月刊誌といえば本誌もその業界に身を置いており、「クォリティ」は誌歴40年を超えるほどの老舗媒体のひとつである。報道にかかわるメディア業として、民事訴訟の当事者になることは珍しいことではない。だがその際には、いやおうなく該当記事や取材の中身も問われることになる。その点において今回はどうだったのか──。
今回の同誌記事は、詳細はともかく、タイトル『時計台記念病院医師移籍トラブルで東京・板橋中央病院「カレス」買収の噂』に象徴されるように、社会医療法人カレスサッポロがトラブルと財政難に見舞われ、大手医療グループに買収されるかもしれないという“噂”について報じたものだ。また同記事では、かつて西村理事長の片腕としてカレスグループの拡大に手腕を発揮した後、医療関連会社スクウェア・ワンを設立して独立した大城辰美氏についても言及している。
裁判で争われることになった案件でもあり、書かれた事実関係の信憑性と正確性については、ここでは論評しない。むしろ私が取り上げたいのは取材のあり方についてだ。
本誌に提訴に至った理由を説明した西村理事長(6月2日午後)
6月1日の記者会見で西村理事長は、今回の件でクォリティ側から取材要請がなかったと説明し、報道陣への配布資料「訴訟に至った趣意(概要)」の中でも「噂の裏づけは取るというジャーナリズムとしての本来の活動を怠った」と厳しく指摘している。記者会見翌日、西村理事長は法人本部事務所で本誌の取材に応じ、次のように話した。
「(該当記事が掲載されるまで同誌が)私に取材を求めてきた経緯はいっさいありません。関係者に確認してもらいましたが、板橋中央病院も私と同じく取材を受けておらず要請すらなかったとのことです。これまでもクォリティには、取材をせず一方的に憶測を書かれた経緯もあります。噂や断片的な事実をつなぎ合わせて勝手にストーリーやイメージをつくるような報道のあり方に一石を投じたいというのが、今回の狙いのひとつです」
客観的に裏付けが取りにくいネタであればあるほど、訴訟といったトラブルを回避するためにも当事者取材は欠かせないはずだ。この点について6月3日、クォリティの手小代表は本誌の取材に対して「訴状の中身をまだ精査しておらず、取材の有無も含めてお答えできない。ただ私たちはこれまでも掲載記事に関して当事者から反論や抗議があれば、それを誌面に反映させるという編集方針でやってきた。提訴については当事者の考えによるものだろうが、今回は抗議も反論も受けていない」とコメントしている。
今回の記事の信憑性と取材のあり方の是非については裁判の行方を見守る以外にないが、ただ気になるのは同誌が09年1月号の出版広告をめぐっても別のトラブルを抱えていることだ。昨年12月16日付け道新朝刊全道版に掲載したクォリティの広告内に「次号予告」として「北海道空港グループに巣食うITハイエナの目論み 新会社『クロスメディア・ホールディングス』の闇と嗅気」というタイトルが踊ったものの、結局該当記事が2月号以降に掲載されなかった件である。この件では何の取材もされないまま「予告」されたクロスメディア・ホールディングスがクォリティ側に激しく抗議。法的な係争には至っていないが、解決したとは言えない状態が続いている。
取材姿勢や取材のあり方については、本誌も等しく問われるテーマである。ナーバスで事件性の高い案件ほど、そのハードルは高くなる。だが、いわゆる「玄関ネタ」と「記者クラブ」に依存しない(できない)地方メディアとして存在感を高めるためにも、愚直に取材を重ね可能な限り当事者に当っていくほかはない。そのことはジャーナリズム云々以前の話だと私は思う。大手マスコミもミスリードし、官僚の「大本営発表」を鵜呑みにし、取材の基本を疎かにしている昨今である──。(く)
地元月刊誌といえば本誌もその業界に身を置いており、「クォリティ」は誌歴40年を超えるほどの老舗媒体のひとつである。報道にかかわるメディア業として、民事訴訟の当事者になることは珍しいことではない。だがその際には、いやおうなく該当記事や取材の中身も問われることになる。その点において今回はどうだったのか──。
今回の同誌記事は、詳細はともかく、タイトル『時計台記念病院医師移籍トラブルで東京・板橋中央病院「カレス」買収の噂』に象徴されるように、社会医療法人カレスサッポロがトラブルと財政難に見舞われ、大手医療グループに買収されるかもしれないという“噂”について報じたものだ。また同記事では、かつて西村理事長の片腕としてカレスグループの拡大に手腕を発揮した後、医療関連会社スクウェア・ワンを設立して独立した大城辰美氏についても言及している。
裁判で争われることになった案件でもあり、書かれた事実関係の信憑性と正確性については、ここでは論評しない。むしろ私が取り上げたいのは取材のあり方についてだ。
本誌に提訴に至った理由を説明した西村理事長(6月2日午後)
6月1日の記者会見で西村理事長は、今回の件でクォリティ側から取材要請がなかったと説明し、報道陣への配布資料「訴訟に至った趣意(概要)」の中でも「噂の裏づけは取るというジャーナリズムとしての本来の活動を怠った」と厳しく指摘している。記者会見翌日、西村理事長は法人本部事務所で本誌の取材に応じ、次のように話した。
「(該当記事が掲載されるまで同誌が)私に取材を求めてきた経緯はいっさいありません。関係者に確認してもらいましたが、板橋中央病院も私と同じく取材を受けておらず要請すらなかったとのことです。これまでもクォリティには、取材をせず一方的に憶測を書かれた経緯もあります。噂や断片的な事実をつなぎ合わせて勝手にストーリーやイメージをつくるような報道のあり方に一石を投じたいというのが、今回の狙いのひとつです」
客観的に裏付けが取りにくいネタであればあるほど、訴訟といったトラブルを回避するためにも当事者取材は欠かせないはずだ。この点について6月3日、クォリティの手小代表は本誌の取材に対して「訴状の中身をまだ精査しておらず、取材の有無も含めてお答えできない。ただ私たちはこれまでも掲載記事に関して当事者から反論や抗議があれば、それを誌面に反映させるという編集方針でやってきた。提訴については当事者の考えによるものだろうが、今回は抗議も反論も受けていない」とコメントしている。
今回の記事の信憑性と取材のあり方の是非については裁判の行方を見守る以外にないが、ただ気になるのは同誌が09年1月号の出版広告をめぐっても別のトラブルを抱えていることだ。昨年12月16日付け道新朝刊全道版に掲載したクォリティの広告内に「次号予告」として「北海道空港グループに巣食うITハイエナの目論み 新会社『クロスメディア・ホールディングス』の闇と嗅気」というタイトルが踊ったものの、結局該当記事が2月号以降に掲載されなかった件である。この件では何の取材もされないまま「予告」されたクロスメディア・ホールディングスがクォリティ側に激しく抗議。法的な係争には至っていないが、解決したとは言えない状態が続いている。
取材姿勢や取材のあり方については、本誌も等しく問われるテーマである。ナーバスで事件性の高い案件ほど、そのハードルは高くなる。だが、いわゆる「玄関ネタ」と「記者クラブ」に依存しない(できない)地方メディアとして存在感を高めるためにも、愚直に取材を重ね可能な限り当事者に当っていくほかはない。そのことはジャーナリズム云々以前の話だと私は思う。大手マスコミもミスリードし、官僚の「大本営発表」を鵜呑みにし、取材の基本を疎かにしている昨今である──。(く)
Posted by 北方ジャーナル at 15:33│Comments(0)
│編集長日記
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