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月刊誌「北方ジャーナル」公式ブログ › 子供に無限の可能性はあるか

2009年07月03日

子供に無限の可能性はあるか



田下昌明氏の「今こそ育児を見つめ直そう」(第3回)

※前回記事はコチラ
※この記事は北方ジャーナル2009年1月号に掲載されたものを再構成したものです。


◆子供に無限の可能性?◆

 ──敗戦直後、過去の一切を否定しなければ生きて行けないような精神状態の日本人は、アメリカ教育使節団から発せられた誤った育児論、育児文化を受け入れてしまった。

田下「このアメリカ教育使節団の構成メンバーは、ほとんど全員がジョン・デューイ(※注)という哲学者の弟子、あるいはその亜流だったのです。彼らの思想は自然主義といって、子供には無限の可能性があって自分で勝手に可能性を開花させるんだから、才能を引きだそうとしたり、何かを教えるような余計な手出しは必要ないという考えなんです。その考えが正しいと言われたものですから、なんだそれじゃあ放っておけばいいんだと、こういうことになってしまった」

 ──無限の可能性。放任主義。今でも日本の育児に脈々と受け継がれ、生きている思想ですね。そんな思想を持ったアメリカ教育使節団はどんなことを日本に残したのですか。

田下「使節団は日本の教育体制を根本から変えました。その方便として、『教師の最善の能力は、自由の雰囲気の中でのみ栄える』、『子供たちの測り知れない資質は、自由主義の陽光の下でのみ豊かな実を結ぶ』というような言い方をした。だから皇室を中心としたような教育はいらないと。言ってみれば日本人に対して一度、トランプのシャッフルみたいなことをしたんです」

◆敗戦で失ったもの◆

 ──その当時、日本の教育者たちというのは、そのような流れを唯々諾々と、あるいは疑問なく受け入れたんでしょうか。変だなと思う人はいなかったんですか。

田下「変だなと思って行動に移す人は、みんな公職を追放されましたからね。言いなりになるしか生き残る道はなかったんです」

 ──デューイの思想をもとに“自由”に教育された子供たちはどのような大人になるんでしょう。

田下「デューイは19世紀末に実験学校をシカゴに作りました。さきほど話した彼の理論はそこでの教育方針なんです。その結果については動物行動学者のローレンツが語っていて、要は我慢ならないほど厚かましく、能力はあるが非攻撃的でない子供が続々と出来上がったと言ってます。それだけにとどまらず、服従してくれた親から巣立つと、無情な社会に耐えきれず多くがノイローゼになったとも言ってます」

 ──そんな若者の問題は、どこかで聞いたことがありますね。キレるとか、ニートとか。

田下「ローレンツはそれを63年に出版した本の中で語っているんです。今から40年以上前ですね」

 ──デューイの理論によって、日本の育児は壊滅的なダメージを負ってしまったと。

田下「実は必ずしもそうではないんですよ。終戦直後はまだ当時の祖父母世代は健在で、伝統的な育児法が守られていました。しかし、戦後20年の間に家庭内の祖父母の力が少しずつ落ちていったんです。日本は高度経済成長時代を迎えて、若者が当たり前のようにクルマを乗り回し、田舎から都市部に集まるようになった。その若者同士が結婚して核家族も出現しました。戦後から20年経った、60年代の後半あたりで当時の日本の祖父母たちは育児に出る幕がなくなったのです。そしてちょうどこの時期に、デューイの思想を具現化したベンジャミン・スポック(※注)の本が日本で出版されて大変なベストセラーになりました」

◆抱き癖はつけてはいけない?◆

 ──それが『スポック博士の育児書』ですね。

田下「日本に新しく輸入された育児の方法論のなかで『抱き癖をつけてはいけない』という象徴的なものがあります。ほかに『日本人の赤ちゃんは添い寝してもらっているから独立心に乏しい』とか、『反抗期は大人になった証拠なのでやさしく見守ってやればいい』などといったこともありますね。それらのことを誰が最初に言い出したのかというと、私はスポックだと思います。さきほどのローレンツの話で60年代にはすでにデューイの思想に基づく教育を受けた人の中から社会に適応できない若者が数多く出ていました。その一方で60年代後半の日本ではこのデューイの思想を形にしたようなスポックの育児書が『持っていなければ時代遅れ』と言われるほどの流行になったんです」

(つづく)

※この記事は北方ジャーナル2009年1月号に掲載されたものを再構成したものです。

(※注)
ジョン・デューイ(1859─1952)
アメリカの20世紀前半を代表する哲学者。プラグマティズムを代表する思想家で、実用主義などと訳されるプラグマティズムとは物事の真理を実際の経験の結果により判断し、効果のあるものは真理であるものとする考え方。20世紀初頭のアメリカ思想の主流となり、のちにアメリカ市民社会の中で通俗化され、ビジネスや政治、社会についての見方として広く一般化した。

ベンジャミン・スポック(1903─1998)
アメリカの小児科医でベトナム戦争に反対し平和運動家としても活動した。46年に刊行(日本語訳は66年)した『スポック博士の育児書』は世界的ベストセラーのひとつに数えられる。42カ国語で翻訳され、世界中で5000万冊販売され聖書の次に売れた本とも言われている。母親への革新的メッセージである「自分を信じてください。あなたは自分が考えるよりはるかに多くのことを知っているのです」が有名。72年に人民党候補として大統領選挙に立候補したが落選している。


<田下昌明氏 プロフィール>
たしも・まさあき   1937年、旭川市生まれ。医学博士。医療法人歓生会豊岡中央病院会長。北海道大学医学部卒、同大大学院修了。日本小児科学会認定小児科専門医、日本小児科医会「子どもの心相談医」、日本児童青年精神医学会会員、日本家庭教育学会理事、北海道小児科医会理事









Posted by 北方ジャーナル at 10:52│Comments(0)
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 昭和47年(1972年)創刊。生活者の視点と取材を重視する編集方針を創刊以来のポリシーとし、05年11月からは有限会社Re Studio(リ・スタジオ)が発行。道内有名書店などで毎月15日前後に発売。購読の申し込みや問い合わせ、情報提供などはサイドバーにある「編集部へメッセージ」からどうぞ。
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