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2009年06月25日

手塚治虫『火の鳥』

手塚治虫『火の鳥』
現在4巻、初版発行09年05月30日、朝日新聞出版、
本体1,100円税別


 本誌の人気連載のひとつ『小笠原淳のたまにはマンガも読みたまえ!』が、現在発売されている北方ジャーナル7月号で40回を迎えました。それがいったい何の節目になるかは分かりませんが、このコラムも月に一度、当ブログで掲載していきたいと考えております。では早速、お楽しみくださいませー。


これぞ雄篇「火の鳥」最初期版
角川版の愛読者も書店へ急げ!


 内容をあれこれ綴るまでもなかろう。手塚作品の中でも最も有名と思われる長篇の一つが、B5判の新装版で覆刊と相成った。敢えて言うが、すでに同作を全巻所蔵している読者も、本シリーズは改めて買い揃えておくべきだろう。

 手塚治虫は、実に頻繁に原稿を描き換える作家だった。いわゆるネーム(吹き出し内の文言)、つまり科白の改稿は当たり前、雑誌連載終了直後に原稿をあちこち組み直して構成をがらりと変え、単行本では掲載時の面影もなくなっていた、というケースさえザラにある。今年早早に原作者酒井七馬のクレジット付きで限定覆刻された処女長篇『新寶島』(小学館クリエイティブ)など、これまで一般的に流通していた手塚全集版(講談社)のそれとは内容があまりにも違う。それもその筈で、本来1947年に執筆された同作は、全集刊行時の84年に手塚自身がその全頁を描き改めてしまったのだ。同じような事情で、『ジャングル大帝』や『鉄腕アトム』、『三つ目がとおる』などの人気作は、いったいいくつの版があるのか素人眼にはまったくわからないほどだ。

 本作もまた、そうした“バージョン違い”のある人気作のひとつ。現在入手可能な版で最も一般的なのは角川書店版のものだろう。手塚の晩年に同作「太陽編」が角川の「野性時代」に連載されていたことから、同社が全篇をハードカバーで刊行、のちに文庫化した。

 次いでよく流通しているのが、講談社の全集版。78年から83年にかけて「黎明編」から「乱世編」までが全12巻に収録され、著者没後の94年から「生命編」「異形編」「太陽編」が全4巻で刊行された。ともに、それなりの規模の書店に赴けば手に入る。

 このたび覆刻された朝日ソノラマ版は、実際には講談社版とほぼ同じ内容だ。だが、全集の刊行よりも一足早くラインナップが揃ったゆえ、愛読者には「火の鳥」最初期の単行本として珍重されている(厳密にはCOM版=絶版=が最初)。各編の細部が角川版と微妙に異なっており、「望郷編」に到っては百ページ近くも収録量が多い。その上、初出誌(「COM」「マンガ少年」「野性時代」)の判型と同じ規格とて、肉筆原稿に近い迫力も味わえる。

 マンガは、文学などと異なるアナログ芸術だ。デジタル情報たる文字は、紙が黄ばもうと墨が薄れようとその価値はなんら失われないが、画となるとそうはいかない。名作が新しい紙で復活するのは、単純に喜ばしいことと言える。

 旧版の読者は初版刊行時の感動を思い出し、未読の読書人は新たな感動に期待して、迷わず手に取るべし。1冊千円余は、文句なしに安い!

(フリーライター・小笠原淳)


※この記事は『北方ジャーナル2009年7月号』に掲載されたものです。





Posted by 北方ジャーナル at 13:35│Comments(0)
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