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2008年11月04日

文化の日、間抜けな朝

文化の日、間抜けな朝 一般には文化の日とされ、マンガ好きの私は手塚御大の誕生日と認識しているところの、祝日にして連休千秋楽の3日早朝、文化の香りとおよそ無縁な“朝回り”に臨んで早朝のJR札幌駅を訪ねる。ホームレス手配師の“仕事”の現場を押さえるためだ。

 本誌11月号掲載の「貧しき亜寒帯」第5回では、ホームレス手配師の奇妙な主張を採録した。同第4回(10月号掲載)での「ホームレスを喰う」という表現に激怒した手配師N氏(70)は、「でたらめ書きやがって!」と怒鳴りながら自身の稼業を正当化(?)する言説を弄し、本誌の取材を疎ましがって「もう来るな」と吐き棄てた。

 来るなと言われたからには、行かなくてはならぬ。但し、このたびはこちらの姿を敵に目撃されてはならない。私の新たな目的は、職業安定法違反の現場=N氏が“人夫貸し”業者から現金で斡旋料を受け取っている瞬間=を撮影すること。至近距離でつきまとっている限りそのような場面は永劫訪れないとて、気配を殺して早朝の街をうろつくしかないのだ。張り込み用の車輌も望遠レンズもないのだ。差し入れの食糧も早朝手当てもないのだ。年末のボーナスはもしかしたらあるかもしれないので、とくに触れないでおく。

 いざ出陣、の1時間後、午前7時半ごろに張り込み大計画は頓挫したのであった。なんのことはない、人捜しにかけては手練れのN氏のこと、こちらのほうが先に相手に発見されてしまったのである。

「おう、雑誌屋」
「ああーっ!」
「何やってんのよ」
「…Nさんに見つからないようにNさん捜してたんですよ」
「フフン、記事売れたのか」
「もう、もう、無茶苦茶売れてるから。みんな読んでるから」
「フン、おれはホームレスで儲かってなんかないんだからな」
「ああ、はいはい、何回も聴きました」

 この日、N氏は愛人同伴だった。相方の女性もまた喰えないオバサンで、路上ではちょっと有名である。N氏のDVが原因で家を出て、皮肉なことにボランティア団体に匿って貰ったことがあるが、私がその事実を知っているということを、ふたりは知らない。これを読んだら知ることになるのだけれども。

(何がフフンだ、搾取ジジババめ)

 心で悪態を吐いてみても始まらない。行き当たりばったりの私が悪いのだ。しかし、これはもう仕方のないことだ、こういうやり方しかできないんだもの。

 8時を回るころ、札幌駅北口の喫煙所に行くと、顔なじみのホームレスのふたり、SさんとHさんとがいた。「やあ、Nさんに見つかってしまって」といきさつを話すと、「現場押さえるなんて無理無理。人ごみに紛れて、一瞬だから」とSさん。「鉄道警察だってパクれないんだから」とHさん。

「まあ頑張れ。山谷の映画みたく、Nば土下座させて撮れたらたいした面白いわなあ」
「ああ、監督が殺された映画」
「そうそう。…そうだ! 殺されたら話題になるわ」
「殺されたら書けないでしょ」
「新聞で書いてくれるって。こんな小さくよ、『ライター殺される』って」
「かっこ悪いじゃん!」
「いや、いい! いい! やいーや、そうならねえかなあ」

 Hさんらが言う「映画」とは、東京・山谷で撮影された有名なドキュメンタリー作品のこと。撮影途中で監督が刺殺され、後を引き継いだ2人めの監督も封切直後に射殺された。地元のやくざさんが仕切る搾取の現場を暴いたためである。おっそろしい話ではあるが、札幌のようなノンキな土地でそんな目に遭う可能性なぞ皆無に等しく、身の危険はまったく感じない。ただ、取材準備の苦手な己れの間抜けぶりには自分で疲れてくる。

 と言いながら、根本のところではさっぱり懲りることなく、また同じような物腰で現場に赴くのだ。何の反省もなく、こうやって手の内をブログで公開してしまうのだ。カネと脳ミソの足りない『北方ジャーナル』編集部の取り柄は、ただひとつ――。

“しつこい”ことである。 (ん)



Posted by 北方ジャーナル at 10:43│Comments(0)
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